「薔薇」や「クリスマスローズ」と肩を並べて、平成から令和の園芸業界を彩ってきている植物が「クレマチス」です。
品種改良によって数多くのクレマチスが誕生してきましたが、薔薇には無い青い花やベル型の花を咲かせる品種もあるため、薔薇のわき役として一緒に育てている方も多いのではないでしょうか?
もちろん、クレマチス自体が魅力的なつる性植物のため、庭や花壇のメインとなる植栽として楽しむこともできます。
クレマチスはキンポウゲ科に属する多年草で、一度植え付けると毎年のように長い蔓を伸ばして、美しい花咲かせてくれます。また、育て方も難易度が低いため、園芸初心者の方からベテランの方まで、幅広く親しまれている植物と言えます。
この記事では、クレマチスの育て方について、1年間の作業を写真入りで紹介したいと思います。初心者でも育てやすい四季咲きの強剪定タイプ (新枝咲き) のクレマチス「ソワレ」を例に取り各作業の詳細を紹介していきます。
これからクレマチスを育ててみようと思っている方にとって、1年間の作業内容を知る御参考になれば幸いです。
植え付けの方法 -土選びと鉢選び-
クレマチスの植え付けについては、次のリンクの記事で詳細に説明しているので、もしお時間あればそちらの記事を御確認下さい。根の特徴や植え付け時の注意点などを細かくまとめています。
ここでは、簡単に植え付けのポイントのみを記しておきます。
クレマチスは、クリスマスローズと同じく「キンポウゲ科」に属しており、根が真っすぐ地中深くまで伸びていく性質を持っています。根は途中で分岐することが少ない「直根」と呼ばれる根を持っています。
そのため、直径が大きな鉢を選ぶよりも、どちらかと言うと深さがある鉢を選ぶことをお勧めします。また地植えにする場合にも、クレマチスのために少なくとも40cmくらいの穴を掘り、そこにクレマチス専用の土を入れてあげると生育が良好になります。
また、比較的乾燥した地域が原産となりますので、土がいつまでも湿っているような保水性の高すぎる土が苦手です。そのため、赤玉土や鹿沼土などの排水性が高く保水性もある土をメインにした配合の培養土が最適です。
春の新芽の成長と構造物への誘引作業
ここからは、春の芽吹きと蔓の成長時の誘引作業を紹介します。
春の成長では、1日に数cmくらい蔓が伸びることもあるので、誘引の作業のタイミングはしっかりと見計らっておく必要があります。
春の強い風の中で長く伸びたつるを放置すると、蔓が折れてしまう場合があるので、蔓の誘引や固定の作業はマストだと考えておいてください。
あらかじめ、どこに誘引するのか?どこに固定するのか?は事前に考えておいてください。
新芽の芽吹きの様子を紹介
冬場に植え付けを済ませたクレマチスは、3月の気温の上昇と共に活動が活発になります。
芽吹きのタイミングは品種やお住まいの地域に依存するところはありますが、概ね3月の初旬から中旬くらいには新芽の成長が始まります。
冬の時期には地上部が全く無いので、クレマチスが生きているのか否か心配になるのですが、春になると一斉に新しい蔓を伸ばしてきます。
下の写真が春の芽吹きの時期のクレマチスですが、ギリギリ顔を出している株元の付近から、新しい蔓が芽吹いているのが分かるかと思います。
特に強剪定タイプ (新枝咲き) のクレマチスは、冬場には深く蔓を切り込んでしまうため、基本的には春の芽吹きは上の写真の様な感じになるかと思います。
ただし、昨年の蔓が残っていたクレマチスについては、残っていた蔓に発芽点があれば、そこから新しい芽が出てきてます。上の写真の株元からの芽吹きに加えて、残っていた蔓からも芽吹きがあるというイメージです。
枝は柔らかいけど折れやすいので緩めに誘引する
気温が上がり、新芽の成長にスイッチが入ると、クレマチスの成長は一気にスピードを上げていきます。
「新芽が出て来たなぁ~」と思っていると、あっという間に10cm, 20cmと蔓が伸びていきます。
ただ、クレマチスの蔓は実はかなり脆く、葉が展開している節の部分で簡単に折れてしまいます。
そのため、蔓が伸びてきたら支柱などでサポートしてあげることが必須です。ただ、あまりきつく縛り付けると成長に支障がでますので、下の写真にあるように緩く縛ってあげて下さい。
春は強い風が吹く日が多く、突然の突風もあるため、知らぬ間に枝が折れてしまっていることが多々あります。
蔓が曲がるくらいであれば良いのですが、完全に折れてしまうと接合は無理なので、折角伸びた蔓が無駄になってしまいます。
それは言い換えれば開花の時期が遅くなることを意味するので、蔓の伸び具合を確認して、事が起こる前に支柱などでサポートをしてあげましょう!
誘引中に蔓が折れてしまったらどうすればいいの!?
クレマチスの蔓は、非常に折れやすいことが特徴的です。
品種に関わらず、基本的に折れやすいです。
そのため、強風の日や誘引の最中は特に注意が必要です。
しかし、蔓が折れてしまっても、葉の付け根にある発芽点から新しい蔓が伸びてきて花を咲かせてくれるので問題はありません。
蔓が折れたことによるデメリットは、花が開花するのが遅くなってしまう事ですね。
蔓が折れてしまった時の対処や折れた部分の成長の詳細は、下の別記事で紹介をしています。
クレマチスは葉が構造物に絡まりついて蔓を支える
蔓を伸ばす植物として「アサガオ」がありますが、アサガオはつる自体が構造物に絡まりついて成長をしていきます。
しかし、クレマチスの場合には蔓自らが構造物に絡まりつくのではなく、葉が伸びて構造物に絡まり、蔓を安定させるという成長をします。
下の写真が、その様子ですが、葉がオベリスクに絡まりついていることが分かるかと思います。
葉が構造物に絡まり始めると、引き剥がすのに非常に苦労します。構造物に絡まった葉を無理に引きはがそうとすると、葉が柔らかいので破れてしまう事もあります。
そのため、蔓が伸び始めたら、絡ませたい部分に適宜誘引してあげてください。
成長期に1週間も放置すると、予期せぬ方向に蔓が伸て葉が構造物に絡まりつき、自由に誘引が出来なくなるという事態になることは間違いないです。
クレマチスの蕾の成長過程と春の開花について
クレマチスの蔓がある程度成長してくると、蕾の形成が始まり、開花に向けた準備が開始されます。
蕾のでき方もクレマチス特有のものがありますので、その成長過程について以下で紹介します。
クレマチスの蕾の成長過程について
クレマチスは、蔓が成長していくと葉の付け根の部分 (節) から蕾がだんだん出てくるようになります。
下の写真がまさにその様子の写真ですが、小さな蕾が出てきているのがわかるかと思います。
蔓がある一定の長さになり、最初の蕾が形成されると、その節よりも高い位置にある節には多くの蕾が出てくるようになります。
下の写真がその例ですが、「最初の蕾」と記載した場所に最初に蕾が形成されて、その一つ上の節にも蕾が出てきていることが分かります。この後も、蔓が伸びて先で蕾が形成されていくという成長過程になります。そのため、上手く蔓が伸ばせられれば、花数が多くなることが期待できるということですね。
そして、植え付けてから約2カ月が経過すると、蕾が開花寸前のところまで成長します。
蕾の形状もクレマチス特有で、先が尖った樽型の蕾となっています。
待ちに待った春のクレマチスの開花
5月中旬になりますが、待ちに待ったクレマチス「ソワレ」の開花の時期となりました。
次の写真の様に濃い紫色の花です。これだけ濃い紫色の花が高い位置で咲いてくれるので、花壇に強いインパクトが出てきますね。
クレマチスの蕾は、下の方にある蕾が最初に開花し、その後で上の方にある蕾が開花していきます。
これはクレマチスが蔓を成長させながら蕾を作る植物であるという性質によるものです。
薔薇の場合には、頂芽優勢の性質により頂点にある薔薇から咲く傾向にあります。しかし、クレマチスの場合には、蔓を伸ばしながら蕾を形成していくため、最初に作られた低い位置にある蕾が最初に成長し最初に開花します。
そのため、最後に頂点に近い部分の花が終わると、次に紹介する「蔓の切り戻し (剪定)」の時期を迎えるようになります。
クレマチスの花ですが、開花後の花もちについては品種ごとに差があります。この記事で育てているソワレのように大きな花を広げるものよりも、ベル型のクレマチスの方が花もちが良い傾向にあります。
花が終わったら花首の部分で花柄摘みを行い、最後の蕾が開花するまで開花期を楽しんで下さいね!
春の開花後の剪定と2番花の開花まで
春の開花後の剪定について
クレマチスの品種にも依存しますが、6月中旬になると春の開花シーズンが終了します。
全ての蕾が咲き終わったら、伸びた蔓を剪定する作業に入ります。
本記事で紹介しているソワレは、強剪定タイプ (新枝咲き) になるので、新しく花を咲かせるためには新たな蔓を伸ばしてあげる必要があります。
そのため、下の写真に示すように、開花終了後には蔓を株元で切ってしまうという作業を行います。
上の写真だと剪定後の株元の様子が分かりにくいので、次の写真に株元の拡大写真を掲載します。
私の実施した例ですが、株元から20cm程度の蔓を残す程度まで剪定を行っています。
この状態から再び新しい蔓を伸ばさせて、蕾を形成されることで次の開花を楽しむことが出来るようになります。
そして、剪定から約2週間後になりますが、次の写真に示すように、剪定した位置から新しい新芽が伸び始めます。
剪定した位置のすぐ下にある葉の付け根から、2本の新芽が成長してきていることが分かるかと思います。
剪定すると葉や蔓が無くなってしまうので心配になるかもしれませんが、クレマチスは新しい芽を伸ばし、再び開花に向けて長い蔓を伸ばしてくれます。
強剪定タイプの場合、剪定をしないと頭でっかちな株姿になり、蔓が暴れるように育ってしまう可能性があります。しかし、開花後に剪定をして株をリセットすることで、蔓が伸びたい放題になることを抑制することができます。
特に限られたスペースでクレマチスを育てる場合には、開花ごとに株を小さくリセットできる強剪定タイプがお勧めですね!
夏の2番花までの成長
四季咲きのクレマチスであれば、春の1番花の開花・剪定が終わった後、品種に寄りますが約1ヵ月から1か月半くらいで次の花の蕾が顔を出し始めます。
下の写真は、上で剪定を行ってから約1か月後の状態になります。
春の開花の時よりも、蔓の長さは短く、約2/3位の蔓の長さで蕾がたくさん出てきました。
次の写真の様に蕾が出て来ていますが、蕾のサイズも春に比べて小さいです。
この傾向は薔薇も同じですね!
夏になると成長が速く、じっくりと成長せずに蕾を付けてしまいます。そして、夏は花のサイズも明確に小さくなります。
クレマチスも決して夏の暑さには強くなく、春に比べて葉の大きさは小さく、葉の色も少し薄いような印象です。
これらの春と夏の成長の違いについては、下のリンクで詳細に紹介しております。
夏の間のクレマチスの管理ですが、クレマチス専用の土を用いている場合には、水切れに要注意です。
クレマチス専用の培養土は、一般的な草花の培養土よりも乾湿が付きやすい配合になっている場合が多いため、毎朝の水やりは必須です。1日でも水やりを忘れてしまうと、水切れの状態に陥り、葉が落ちてしまう原因になりかねません。
毎朝、しっかりと水やりを行い、暑い夏を乗り切れるようにサポートしていきましょう!
夏の2番花後も春と同様の剪定を実施
クレマチスの品種にも依りますが、概ね夏の終わりくらいにはその年の2番目の花が咲き終わりを迎えます。
全ての蕾が成長し開花が終わったら、春に行った強剪定と同じ要領で剪定を進めていきます。
下の写真は、左側が2番花が終わった後の様子、右側が強剪定を行った後の状態です。
剪定が終わったら、次の新芽が株元から発生するように適切な施肥を行って管理していきます。
8月末から9月前半までに剪定を行えば、9月と10月に新しい蔓が成長し、11月くらいには3番目の花が開花してくれるものと思います。
秋の三番花の開花!秋は春と同様に生育が旺盛に!
暑い暑い夏を乗り越えると、秋のクレマチス (ソワレ) は春と同じように旺盛な成長力を見せてくれました。
下の写真は秋の三番花が一斉に開いた時の様子です。
花が根元の付近にも咲いているように思えますが、実は違うんです…。
蔓が元気に伸びすぎて、オベリスクの高さを越えていきました。その結果、蔓が下に垂れ下がって、根元付近にも花が咲いているように見えているだけなんです…。春の開花の時よりも蔓の長さは長くなりました。
植え付けを行ってから、春から秋の間に株 (根) がさらに充実したことで、秋のタイミングで蔓の長さが一気に伸びるようになったのだと思います。
蔓の長さは水底で3mくらいあります。壁面に這わせたら、かなり見応えがありそうですね!
また、夏の二番花の開花時には、花の大きさにが顕著に小さくなってしまいましたが、秋には花のサイズが春と同じくらいに戻りました。やはり、蕾が成長する際の気温と花のサイズは大きく関係していますね!
秋の開花が終わると、クレマチスはゆっくりと休眠期に入っていきます。
秋の開花後のクレマチスの管理 ~休眠まで~
秋の開花が終わったクレマチスは、下がりゆく気温と共に休眠の準備に入っていきます。
気温が低下することで新しい蔓や花芽が伸びることは無くなり、成長自体が止まっていきます。
成長は鈍化しますが、来る休眠期に向けて、最後の光合成を行わせてあげることが大切です。
具体的には、下の写真の様に、花が終わった後に蔓と葉を残した状態で休眠期まで管理します。
秋の開花が終わった後ですが、成長が遅くなって気温も下がるため、土が乾くスピードも遅くなります。
夏~晩夏のような水やりでは、水やりのしすぎになるので、土の乾き具合を見ながら水やりをするようにして下さいね!
また、休眠に向かう中では肥料もほとんど与えていません。
そして、12月の中旬になると、下の写真の様にクレマチスの葉や茎が枯れ込んできます。
この写真の様に枯れ込んでくれば、ほぼ休眠状態に移行していると判断して良いと思います。
この後は、年間を通じた最後のお世話である、枯れた茎や葉の除去作業が始まります。
冬の蔓の剪定作業
クレマチスが完全に休眠する時期は、お住まいの地域ごとに異なります。
私の住む関西の都市圏では、概ね12月末くらいには葉が枯れて休眠状態に移行しています。
上の写真で紹介した様に、葉が黄色や茶色くなったら剪定作業を始めましょう!
新枝咲きのクレマチスの場合ですが、基本的には地上部を全て切り落として年間のお世話を終わります。
下の写真の様に地上部を切り落とし、株元だけを残した状態で冬を越すと、来春には新しい蔓が伸びてきます。
地上部を完全に剪定してしまってもOKだと思いますが、私の場合にはクレマチスが植えられていることを忘れないために、少しだけ地上部を残すようにしています。
この記事の終わりに
この記事では、クレマチスの育て方について、1年間のお世話・作業を紹介させていただきました。
ソワレの成長を例に取り、2021年の1年間の成長記録や育て方をアップしていきました。
新枝咲きのクレマチスの場合には、この記事で紹介させていただいた作業を繰り返していくことになりますが、旧枝咲きでは剪定方法が異なる点は御注意ください。
クレマチスの栽培をお考えの方に、本記事が少しでも御参考になれば幸いです。