大輪の薔薇を咲かせるための大事な作業に「摘蕾 (摘心)」があります。
摘蕾は「ピンチ」と呼ぶこともありますが、なぜ行う作業なのか?なぜ必要なのか?を御紹介しておきたいと思います。
薔薇が綺麗な大輪の花を咲かせるのには非常に多くエネルギーと大量を消耗します。薔薇の体力を使い過ぎない、花後の育成に繋がる株作りのためには摘蕾が必要な作業です。
記事の後半では、ルージュ・ピエール・ドゥ・ロンサールとプラム・パーフェクトの摘蕾の実例も紹介したいと思います。実践される方の御参考になりましたら幸いです。
花木を充実させる摘蕾 (摘心) とは?
読んで字のごとし、蕾 (つぼみ) と摘み取ってしまうことです。
近年の薔薇は、品種改良が進み、一つの枝に数多くの花を咲かせるようになっているものが多いです。
薔薇は頑張り屋さんで、蕾をたくさんつけてたくさん花を咲かせようとします。常に花を咲かせることに全力投球で、私たちに綺麗な花をたくさん見せてくれます。
しかし、全ての蕾を咲かせてしまうことは、株にとって非常に多くのエネルギー・養分を使うことになります。そのため、蕾の一部が開くことなく終わったり、花の大きさが小さくなってしまったりという弊害が生まれてきます。
一部の蕾を摘み取り、薔薇の株を疲れさせないようにすることで、確実に花を咲かせて次の新枝の芽吹きを促進してあげることが必要です。
摘蕾を行う目的
蕾の数を制限し一つの花を大きく咲かせる
近年のハイブリッド・ティー系やフロリバンダ系の薔薇は、一つの枝に複数の蕾を付けます。多い時は、一つの枝に10個近くの蕾を付けます。
その結果、一つの蕾が得られる栄養が分散するため、花の大きさは小さくなる傾向となります。
摘蕾を行い蕾の数を制限し、一つの枝に蕾が一つか二つの状態にすることで、栄養を残した蕾に集中させることができ、大輪の花を咲かせることができるようになります。
多くの花を咲かせて楽しみたい方は、少し多めに蕾を残してあげても良いかと思います。基本的に、薔薇は自分が咲かせられると考えている蕾の数しか蕾を付けません。しかし、中には蕾が開きにくい薔薇もありますので、事前に確認しておきましょう。
体力を温存させベーサルシュートの発生を促進
春の開花の後には、ジメジメした梅雨と暑い夏が来ますので、その季節が来る前に薔薇の株を弱らせ過ぎないためにも摘蕾を行う意味があります。
実は春の開花の後は、ベーサルシュートが一番出やすい時期になります。
頑張り屋さんの薔薇は花が終わった後は蕾が無いので、新しい丈夫な枝を出す方に栄養を使ってくれます。
摘蕾をしていたことで、春の開花でのエネルギー消費が少なくなり、新しいベーサルシュートの発生を促進することにも繋がる傾向があります。
特に新苗の場合、摘蕾を実施した効果が新しいシュート (新梢) として、結果に表れやすいです。
6月は新苗にとってもベーサルシュートを出しやすい時期になりますが、摘蕾によって蕾を全て除去した新苗の株は、2本、3本とベーサルシュートを出し始めます。新苗にとってベーサルシュートは翌年以降の花の数を左右する重要な枝になりますので、摘蕾の作業の重要性が増します。
耐病性と病気の回復
花を咲かせると、葉に回る栄養も少なくなる傾向になるため、葉の病気にかかりやすくなったり、病気の回復が遅れることもあります。
薔薇を育てたことがある方はお気づきかもしれませんが、薔薇の病気って蕾ができ始めた後に出やすくなりませんか?春の芽吹きのシーズンは青々とした綺麗な葉なのに、蕾が付き始めると病気になりやすいですよね。
季節柄の問題もあるのかもしれませんが、私個人的には、葉を丈夫にする栄養が制限されたためではないかと考えています。摘蕾を行うことによって、栄養を株や葉の充実に使うことができ、病気にかからなくなったり、病気の回復を早める効果があるのではないでしょうか。
逆に、病気で葉が少ない状態では、花を咲かせるための光合成もできませんので、葉の数に応じた蕾の数に調整してあげるということも必要になります。
もし葉が1枚も残っていない重症の薔薇苗であれば、蕾は全て除去して枝も剪定し、新芽の出芽を促進していきましょう。
摘蕾の時期は?いつすればよいの?
薔薇の花期には品種によって四季咲き、返り咲き、一季咲きの3種類があります。
四季咲きの薔薇は春の一番花に始まり、年間を通じて4回程度花を咲かせてくれますので、摘蕾の作業は年間を通じて訪れます。
一季咲の薔薇は、春に一回しか咲かないので、摘蕾の作業は春に一度になります。その観点で考えると、摘蕾は四季咲きと返り咲きの薔薇にとっては、一年間を通じて必要な作業となるのです。
春の摘蕾は最も重要だと考えます
春の摘心は最高の薔薇を楽しむために必要な作業だと思っています。
春は休眠期に貯め込んだ栄養を一気に開放し、一年間で最も大きな花を咲かせます。そのため、春の花の大きさは一年で最も大きくなります。
その観点で摘蕾を考えると、最も意味のある摘蕾の作業と言えます。
春は、蕾の数も多くなるため、摘蕾をすると一つの蕾に与えられる栄養も豊富になります。そのため、最高の薔薇の花を咲かせる最大のチャンスになりますので、適度な摘蕾を行うことをお勧めします。目安としては、1つの花枝に2つ以下の蕾が良いかと思います。
夏は全ての蕾を摘蕾することも考える
夏の摘蕾は、秋の開花のために体力を温存させるために必要な作業になります。
日本の夏は暑いです。特に関東よりも南の地域は、真夏には40℃近くまで気温が上がりますので、薔薇にとって最も過酷な時期になります。
その時期に花を咲かせてしまうと、疲れている上にさらに体力を失わせることになります。実は、夏に薔薇を咲かせると、春の花の1/2か1/3の大きさになり、色もあまり良いものではありません。
それだけ花を咲かせるのに適した時期ではないのです。したがって、夏の蕾は咲かせても良いのですが、多くの蕾を摘蕾して良いかと考えます。
咲かせても見ごたえの無い薔薇であれば、最初から咲かせずに、栄養を株の充実に使う方が良いと思います。
梅雨の時期からはベーサルシュート (新梢) が伸びる時期でもありますので、花を咲かせることよりも、株を充実させることに専念しましょう。
私は毎年、6月から9月にできた蕾の8割を摘蕾しています。
秋の摘蕾は冬支度を考えて行う
夏の暑さが和らぎ、秋の薔薇は哀愁漂う中に咲く春とは違う趣のある花になります。夏に失われた体力も回復しますが、完全には回復しません。そのため、全ての蕾を咲かせてしまうことは避けたいところです。
ですので、秋の摘蕾も春の摘蕾と同じ作業をしていきます。
秋の薔薇が終わると、冬が深まり休眠に入る時期です。12月になって蕾を上げてくる薔薇もありますが、そのような蕾も摘蕾して、冬の準備を進めていきましょう。
摘蕾の方法と実例の紹介
ルージュ・ピエール・ドゥ・ロンサールの例
それでは、実際の摘蕾の作業について、ルージュ・ピエール・ドゥ・ロンサールを例にとって御紹介します。
ツル薔薇の多くは、下の写真の様に、一つの花枝に3個以上の蕾を付けます。
この写真では、蕾が6個も付いた花枝になっています。
最も成長しているのが2番の蕾になりますが、これが一番栄養をもらって、今年の1番花になる蕾になります。
4, 5, 6番の蕾は、花枝の頂点のすぐ下から出てきた蕾で、何と3つも蕾が固まった部分になります。この枝は、さすがに全ての蕾を咲かせる能力はないでしょう。ということで、この4, 5, 6番を摘蕾していきます。
摘蕾は簡単で、手で蕾を取る (ちぎり取る) だけです。次の写真に示すように、手で蕾の枝を持ち、ひねるとポキッと折れます。蕾のすぐ下の枝は瑞々しく木質化していないので、手でも簡単に織ることができます。
そして、摘蕾後の様子が下の写真になります。1, 2, 3番の蕾だけが残った状態になります。この状態で一つの花枝に蕾が3つ残りましたが、3つが全て咲いてくれるかはわかりません。
もしかしたら、2番の大きな蕾だけが咲いて他の2つは咲かないかもしれません。そこは難しい所で、花の樹勢や気候、各種条件に依存するので…今回は全てが咲いてくれると信じて残しておくこととしました。
プラム・パーフェクトの例
次にもう一つの例として、プラム・パーフェクトを見ていきます。
プラム・パーフェクトも、上のルージュ・ピエール・ドゥ・ロンサールと同様に、一つの花首から多数の蕾が出てきます。
下の写真の例では、4つの蕾が出てきていることが分かります。これもさすがに全てを咲かせることができないと思いますので、摘蕾をしていきます。
この例では、今年の一番花になる1番の蕾と、少し下の4番の蕾を残し、2, 3番の蕾を摘蕾することとしたいと思います。
摘蕾は、上の例と同じで手で摘み取る方法です。そして、摘蕾後の状態が下の写真です。蕾を取るとすっきりとした印象があります。
この記事のまとめ
この記事では、薔薇の花の大きさや余分なエネルギーの使用を制御するための、摘蕾について御紹介させていただきました。
摘蕾をすることで、薔薇の使用する養分 (エネルギー) が抑えられるため、薔薇の株に無理をさせることなく、開花後の株の回復も早くなります。
また、葉の病気の観点でも摘蕾によって病気が出にくくなるのではないかと思っています。蕾だけではなく、枝や葉にも養分を回すことで、葉が病気になりにくい状態になると考えています。
記事の後半では、実際の摘蕾のやり方を実例とともに紹介させていただきました。摘蕾はハサミを使わなくても、手で簡単に実施することができます。毎日の薔薇の健康チェックの中で、余分な蕾を見つけたら、蕾の根元からポキっと折って蕾の数を制限していきましょう。