園芸を趣味にされている皆様であれば「頂芽優勢」という言葉を聞いたことがあるのではないでしょうか?
植物が生まれながらにもつ本能で、一番太陽に近い芽が優先的に栄養をもらい伸びていく特性の事です。
薔薇も頂芽優勢の性質が働いて、より高い位置の新芽ほど栄養を多くもらえるためよく成長します。
しかし、低い位置の新芽と高い位置の新芽で、成長にどれくらい差があるのでしょうか?
定量的なデータってインターネット上で調べても無いんですよね。
そこで、つる薔薇のルージュ・ピエール・ドゥ・ロンサールを用いて、「春の新芽が出た位置」と「その新芽の長さ」の関係を実際に調査しました。
結果としては、より高い位置から芽吹いた新芽の方が、低い位置よりも2倍くらい枝の長さが長いことがわかりました。また、高い位置の方が新芽の数が多いというデータを取ることができました。
今回取得したデータが、皆様が薔薇栽培の参考になりましたら幸いです。
「頂芽優勢」は生き残るための本能
植物が成長するには、日光が必須の条件となります。
そのため、植物には自分の背を他の植物よりも高くして、太陽光を多く浴びようとする本能が備わっています。
より背を高くするためには、自分の体の中で最も高い位置に栄養を集め、最も高い位置をさらに高く育てようとします。そのため、それぞれの株の最も高い位置に栄養が集まっていき、一番成長が促進される場所になるのです。
この性質を「頂芽優勢」と言い、薔薇だけでなく様々な植物に備わった能力なのです。
薔薇の頂芽優勢は株を観察するとわかりやすいです。最も高い位置の芽がぐんぐん育っていきますし、その枝の頂点にしか花が咲きません。
一番高いところで綺麗な花を咲かせ、虫や鳥に気付いてもらい、雄しべと雌しべの受粉を行うのです。
頂芽優勢は植物が生まれながらに持つ野生の本能であり、自身の子孫を残すための機能とも言えます。
薔薇を栽培するに当たっては、この頂芽優勢の性質を知ることで樹形を整えたり、花を咲かせる位置をコントロールできるので、皆さんも必ず覚えておいてくださいね。
新芽の長さの測定方法について
先にも書いたのですが、頂芽優勢という言葉だけを聞いても、実際に低い位置と高い位置で成長にどのくらい差があるの?という疑問があるかと思います。
そこで今回は、実際の薔薇で定量的に頂芽優勢を調べるために、2020年4月中旬に、オベリスク仕立てのルージュ・ピエールを用いて、次の点をチェックしました。
まず、図1に示すように、地面からの高さを3段階に分けます。今回は、地面から70cmまでの高さ、70cm~110cmまでの高さ、110cm~150cmまでの3つの領域に高さを分けます。
この写真からも地面から離れた位置の方が葉が茂っていることが分かりますね。まさに頂芽優勢を象徴するような葉の成長です。
次に、3つのそれぞれの高さのにある今年伸びた新枝の数を調査します。
さらに、3つのそれぞれの高さにある枝の長さを測定します。枝の長さは、図2に示すように、去年のシュートから伸びた距離とします。
やっぱり頂芽優勢の本能は凄い!
新芽の数は高い位置が圧倒的に多い
まずは、今年の春に新しく伸びた新芽の数を数えた結果になります。
上記の通り、3つの高さで分けて数えた結果を下の図3に示します。
花芽の数については、地面からの距離が高くなるほど多くなる傾向で、明らかな頂芽優勢が働いていることが分かります。
一番低い位置で葉4本程度しか出ていませんが、一番高い位置では16本出ています。つまり、4倍も枝を伸ばすだけのエネルギー・養分を集めているわけです。
また、ここでは写真がありませんが、新芽の太さも高い位置になるほど太くなっていき、より丈夫な枝として成長していることもわかりました。
新芽の長さも高い位置ほど長い!
次に、それぞれの高さでの新芽の長さを図った結果を図4に掲載します。この結果も頂芽優勢の性質を象徴するかのような結果ですね。
地面から離れた高い位置の方が花芽が長くなり、より高い位置の芽に栄養が集中し、さらに上へ上へ伸びていこうとしている薔薇の性質が分かります。
その差は大きく、地面に近い部分に対して高い位置の芽は約2倍の花枝の長さがあります。花枝が長くなれば、その枝に付く葉の数も多くなりますので、より高い位置で光合成が得られることになります。
ルージュ・ピエール・ドゥ・ロンサールの場合、一つの花枝に3つから4つの蕾を付けます。そのため、図3の新芽の数を考えると、より高い位置に大量の花を咲かせることになります。
頂芽優勢を考慮した剪定で樹形を整える
頂芽優勢という特性は薔薇の本能ですので、どうやっても無くすことはできません。
そのため、何も考えずに成長させると、常に高い位置にしか花を咲かせないので、非常にバランスの悪い樹形となります。
したがって、頂芽優勢を考慮して、どこで選定すれば次の芽はどのくらい伸びるか?ということを考えていく必要があります。
例えばメインとなるつるが3本あるとしたら、1本は短く剪定し、2本目は長く残しておく、そして3本目は1本目と2本目の間位の長さに残しておくと全体のバランスが良くなります。
今回の実験から、高い位置と低い位置では新芽の長さに約2倍の差があることがわかりましたので、それを目安に剪定をしてみてはいかがでしょうか?
今回はつる薔薇のルージュ・ピエールを例にしましたが、木立性の薔薇の場合も同じです。何も考えずに剪定していくと、どんどん背が高くなってしまいます。そのため、高さを出したくないと思っている方は、なるべく低い位置で剪定をしてあげると樹形が整いやすくなります。
高い位置ほど薔薇の病気が出にくい
薔薇の栽培では切っても切り離せない病気があります。
薔薇を栽培している人なら一度は聞いたことのある黒星病 (黒点病) です。
毎年のように薔薇の成長を見ていると気づくことがありました。
黒点病は、まず地面に近い位置の葉から出始めます。その後、特に薬剤の散布等で対策をしなければ、徐々に上の葉にも黒点病が広がっていきます。
これは、地面に近い位置にある葉は、上の葉に比べて光合成の量も少なく、かつ頂芽優勢によって栄養を十分にもらうことができないためです。養分が少なければ、葉の大きさや厚みも小さくなるため、耐病性が自ずと落ちてしまいます。
上にある成長点や葉が最も優先という特性は、実は新芽の長さだけでは無く、耐病性にも現れるのです。そのため、私は薬剤の散布の時は、地面に近い葉を優先的にしてあげています。
今回の記事のまとめ
今回の記事では、薔薇の頂芽優勢という性質を定量的に見るために「新芽の数」、「新芽の長さ」、「新芽が芽吹く高さ」の関係を調査してみました。
薔薇を栽培している方であれば、何となく高い位置の方が成長しやすく花も多いというイメージはあったかと思うのですが、実際にデータで見たことはほとんど無いのではないでしょうか?
実際に測定してみると想像以上に頂芽優勢の効果は強く、高い位置の新芽の方が長さが約2倍も長く、新芽の数も3倍以上多いことがわかりました。
今回の結果はつる薔薇のルージュ・ピエール・ドゥ・ロンサールを調査した結果ですが、他の薔薇にも言えることです。
このデータが皆様の薔薇栽培の御参考になりましたら幸いです。