薔薇の剪定を行う時に、少し怖いのが「失敗」です。
一度切ってしまうと、その切った枝は元には戻りませんので、剪定は一発勝負なところがあります。
多くの薔薇を管理している方は剪定に慣れていると思いますので、あっという間に剪定を済ませてしまいますが、あまり馴染みのない方は慣れない作業に手こずることもあると思います。
私自身も薔薇栽培を始めた頃には、切り過ぎたり、切る量が足りなかったり…剪定の作業では色々な経験をしたことを覚えています。
この記事では私が実践している「失敗しにくい剪定方法」について、夏剪定を例に取って御紹介したいと思います。記事の中では四季咲きの木立性薔薇「イングリッド・バークマン」を例に取って夏剪定の手順を紹介していきます。
はじめに -夏剪定に失敗しても薔薇は枯れない-
「剪定」という言葉を聞くと、少し作業が難しいような印象があるのは私だけでしょうか?
剪定と言う言葉だけを聞くと、職人さんが庭木を匠の技で切っていくというイメージがあります。
しかし、薔薇の剪定については、職人さんに依頼するほどのものでは無いですし、何度か経験すれば「難しい」というイメージの敷居は超えられるはずです。
薔薇の剪定は、年間を通じて何度も訪れます。冬の剪定に始まり、開花後の花柄摘み、そして夏剪定まで…年間を通じて、多い時は一つの株に対して5回か6回くらい剪定する場合もあります。
各剪定において、自分自身で樹形を考えたり、次の花が咲く位置を考えたり、色々と考えて剪定をしていきくことになります。しかし、各剪定の中で、毎回その株にとって最適な剪定方法を行える方は多分いません。
薔薇の教科書を書くような有名な方でも、最適な剪定を毎回実施できる方はいません。
薔薇は喋ることが出来ませんし、生きている植物です。
良かれと思って行った作業が裏目に出て失敗になったり、間違ったと思っても成功する方向へ動くこともあります。
植物を相手にしているということを考えると、薔薇の剪定の作業においても、失敗は無いのだと思います。根元から茎を切って、茎が無くなってしまうような事をしたとしても、薔薇は新しい茎を芽吹かせて新しい花を咲かせようとします。
そのため、薔薇を剪定する時、切る位置を少し間違ったとしても、気にすることは無いと思います。
自分が満足できる剪定が出来れば、それで良いですし、それが薔薇栽培と言う趣味だと思います。
本記事で夏剪定するイングリッド・バークマンの株姿
さて、本題の鉢植え薔薇夏剪定に話を戻したいと思います。
今回の記事で夏剪定をするのは、下の写真に示す、イングリッド・バークマンです。薔薇の歴史の中で、深紅の薔薇の最高傑作と言われており、薔薇の殿堂入りを果たした有名な薔薇です。
鉢植えで育てていますが、樹勢はかなり強く、どんどん新しい枝を出して蕾を付けようとしてくれる点は、まさに殿堂入りの薔薇という感じがします。
これだけ樹勢が強く、病気にも強いので、初心者からベテランの方まで誰でも育てることが出来る薔薇だと思います。
ただ、樹勢が強いということで、夏の剪定前には、上の写真の様にかなり枝数が多くなり、葉の数も込み合っているような状況です。樹高も130cmくらいあり、10号鉢では少し小さいように思える株姿となっています。
この薔薇を以下の剪定手順で剪定していきます。
私の実践する失敗を防ぐ夏剪定の手順
手順① まず新芽の下で剪定を行う
まず最初に行うのは、夏の間に育った新芽の処理です。
下の写真の様に、薔薇の枝の先端部分には、赤い葉を伴った新芽が出てきていることかと思います。この新芽が出ている下の位置で、まずは剪定を行います。
ここで剪定をする理由としては、既に育ってしまっている新しい芽は、既に成長が始まっているため、成長の足並みが他の薔薇と揃っていないためです。
この枝に付いた新芽を成長させても、枝の細い部分になるので、あまり大きな薔薇は望めませんし、開花の時期が少し早くなってしまうデメリットがあります。
夏剪定には株の成長を一旦リセットして、全ての薔薇の成長の足並みを揃えさせるという意味もあるので、このタイミングで新芽の出ている部分は切ってしまいます。
新芽の下の位置で剪定した後の写真を下に載せておきます。最初の状態とあまり変わらないように思いますが、赤い葉の新芽が無くなっているかと思います。ただ、この状態だと両側の芽が非常に伸びており、樹形が少し悪いこともわかります。
手順② 飛び出している枝を切り樹形を揃える
上の見出しの最後の部分で、両サイドの枝が飛び出していることを説明しましたが、次の手順としては、それらの長く伸びている茎を切り落としていきます。
樹形を揃えていく手順としては、必ず長く伸びた枝を徐々に短くしていくことが鉄則です。
短い枝から切ってしまうと、取り返しのつかないことになってしまうので、必ず長い枝から切っていき、最後に最も短い枝で調整するという手順がベストです。
実際に、長く伸びた両脇の枝を選定した写真が次の写真になります。この時点で既に樹形がまとまりを見せてきており、株の姿が綺麗な形になってきていることが分かります。
手順③ 新芽の向きを考えた剪定で仕上げ
剪定の最終手順としては、新芽がどの方向に伸びてくるかを想像して、剪定を行っていきます。
新しい芽は、葉の付け根から出てくるので、葉の付け根の方向を見定め、新しい芽がぶつかり合わないような剪定の仕上げをしていきます。
新芽の方向と樹形を考慮した剪定方法については、別の記事で紹介していますので、もしよろしければこちらをご参照ください。
さて、実際に新芽の向きも考慮して剪定をした仕上げ後の株姿が次の写真になります。この最終仕上げを良いと思うか悪いと思うかは、正直なところ人それぞれだと思います。もう少し枝を残す方もいれば、さらに深く剪定する方もいます。ただ、最後は、自分の満足度で判断すれば良いかと思います。
剪定のついでに葉の整理もしましょう
せっかく剪定を行ったので、葉の整理もしましょう!
夏の間、強い日差しに晒された葉は、少し元気が無いものもたくさんあります。肥料切れや水切れで黄色くなってしまっているものもあるかと思います。
秋の開花に向けて、少しでも綺麗な姿で咲いてもらうためにも、不要な葉の整理もしておくべきかと思います。
上の仕上げの写真にも、少し葉の色が悪くなった部分が写っているかと思います。これらの葉は、新芽が成長する過程で枯れ落ちてしまう可能性もありますし、元気が無いのでハダニの巣になってしまう可能性もあります。そのため、夏剪定のタイミングで除去するようにしています。
実際に、黄色く変色しているような葉も除去した株姿が下の写真になります。少し葉の密度が少ないように思われるかもしれませんが、これから新芽が伸びて新しい葉が芽吹いてくると、丁度良い葉の密度になってくれます。
この記事のおわりに
この記事では鉢植え薔薇の夏剪定について、剪定の失敗を防ぐという観点で、剪定の基本的な部分を交えながら紹介をさせていただきました。
薔薇の剪定には、最適な答えは無いと言われることがありますが、私はまさにその通りだと思います。生きている植物を相手にしていますが、薔薇は喋ることが出来ないので、最適な剪定位置を教えてくれません。そのため、プロが行う剪定でさえも、正直なところ、最適な方法と断言することはできないと思っています。
私としては、薔薇の剪定は失敗を恐れずに、自分の満足がいく内容で剪定を進めれば良いと思っています。樹形を整えるという観点では、本記事の内容は御参考にしていただけるかと思いますが、あくまでも一つの参考事例ということでお考えいただければと思います。
今回の剪定で切った薔薇の量を下の写真で紹介します。散髪をしているみたいで、これだけ剪定すると、さっぱりした気分です。
最後になりますが、薔薇の剪定は薔薇の栽培の中でも、最もお世話をしている感がある作業になります。剪定した後には一種の達成感を感じますし、剪定後に綺麗な薔薇が咲くと、大きな満足度を得られることも事実です。
さぁ、失敗を恐れずに夏剪定作業を進めましょう!
夏剪定していると、珍客が来ていることもあります (下の写真)。私の家の近くには川は流れていないのですが、君はいったいどこから来たのかな?