毎年、3月の後半から4月に入ると、園芸店に薔薇の新苗が並びます。
もちろん、薔薇の大苗も冬から春にかけて販売されていますが、フレッシュな新苗が並ぶのを見ると、温かい春の訪れを感じることができますね。
薔薇の教科書を見ると、新苗は「薔薇の赤ちゃん」と呼ばれていることが多いです。そのため、薔薇の新苗と聞くと、とても繊細で弱弱しいイメージがあるのではないでしょうか?
しかし、薔薇の新苗は、薔薇が最も顕著に成長する時期であり、日々の成長を目で見て確認することができます。
新芽の成長速度に加え、ベーサルシュートの発生も多数見られる…まさに「薔薇の成長期」と呼べるような時期が見られる苗です。
しかし、薔薇の新苗は成長に見合った栽培環境にしないと、その成長の速さを賄うことができません。
この記事では、薔薇の新苗の鉢増しの重要性と、鉢増しをしたことによってベーサルシュートが発生した事例を紹介したいと思います。
薔薇の新苗を購入された方は、可能な限り早く鉢増しをしていきたくなる…そんな内容です。
薔薇の新苗の販売用ポットは育成に適さない
薔薇の新苗は、初春から店頭に並びますが、多くの新苗は直径15cm程度のビニールポットやプラスチックポットに入れられて販売されています。
下の写真はロサ オリエンティスの「シェエラザート」という品種の新苗ですが、少し深鉢の小さなポットで販売されています。
また、日本で一番有名な薔薇である「ピエール・ドゥ・ロンサール」の新苗も、次の写真の様に小さなビニールポットで販売されていることがほとんどです。
しかし、この小さなポットは、苗の生産者さんと私達の間の橋渡しを行うための容器であり、薔薇を栽培するための容器ではありません。
言わば「薔薇の根を販売のためだけに押し込めている」と言っても過言ではない状況です。
薔薇は「草花」では無く「花木」に分類される植物です。
つまり「木」なのです。
将来的に大きくなる木が、このような小さなポットで成長が出来るとは到底思えません。
以前の事になりますが、新苗を小さなポットのままで栽培されている御家庭を複数回見たことがあります。
季節としては、7月か8月の暑い時期の事です。まさに上の写真のシェエラザートの状態で玄関先に放置されている薔薇でした。
薔薇を栽培されている方でしたら容易に想像できると思うのですが、その薔薇は葉がほとんど無く、元気なベーサルシュートも無く…かろうじて伸ばした新芽に小さな花を1つだけ咲かせている状態でした。
育成不良を起こした状態であることは間違いないのですが、薔薇栽培を趣味にしている自分としては、見ていて心苦しいものがありましたね…。
薔薇の成長を左右するのは根の成長
薔薇の成長に影響を与えるものは多くあります。
肥料、日照条件、水やり、土の品質…等々、様々です。
どれも重要なのですが、私自身が最も重要だと思う事は根の成長です。
十分な日照や肥料が無ければ根は成長しないので、日照条件や肥料が最も大事ということになるのかもしれません。しかし、ここではそれらの最終的な結果として得られる根の成長にフォーカスして考えます。
鉢植えの場合には鉢の中にしっかりと根を張り、地植えの場合には大地にしっかりと根を張ることで、地上部の成長をサポートするだけの養分や株の安定感を得ることが出来ます。
例えば、根の長さが15cmしかない薔薇が、1mにもなる茎を出したとすると、相当不安定な状態となり、とてもじゃないですが成長が促進されるとは思えません。
元気なベーサルシュートやサイドシュートをたくさん出すこと、そして多くの花を咲かせること…これらは全て根の成長にかかっていると言っても過言ではないです。
そのため、新苗の根の成長のためには、販売時に使用されている小さなポットでは駄目です。
薔薇の新苗は成長が速い!それこそが新苗栽培の醍醐味
今回の記事で着目している薔薇の新苗ですが、薔薇の栽培の中で最も薔薇の成長を肌で感じることができる苗になります。
一般的には薔薇の栽培は大苗で始める方が安心できると言われていますが、生産者さん達が2年間育てた苗になるので、最も成長を感じることができる時期が過ぎてしまっているんですよね。
新苗を春にお迎えしてから1年間の栽培の中では、ベーサルシュートがでてきて、既存の枝も太くなり、クラウンの部分が大きく膨れて充実し…という薔薇の成長の中で最も劇的に変化する時期を観察することができます。
赤ちゃんを育てるのと同じで、いつの間にか立ち上がるようになり、言葉を覚えて喋り出し、小学校へ通う…まさにその時期に匹敵するのが薔薇の新苗の栽培です。
もちろん、最終的に薔薇の花を楽しむのが薔薇栽培の楽しみかもしれません。
しかし、薔薇の苗の成長を見るという観点では、新苗の栽培にこそ薔薇栽培の醍醐味があるのではないか…と、いつも感じています。
特に薔薇栽培で最も嬉しい瞬間の一つがベーサルシュートの発生ですが、ベーサルシュートは新苗の栽培時が最も多く発生します。
これは、私個人的には断言できます。
そして、そのベーサルシュートの発生を促進するのが鉢増し、または地植えへの移行なのです。
新苗は植え替えることで、確実にその年にベーサルシュートを発生させます!
以下ではその実例を紹介します。
新苗の鉢増しでベーサルシュートが出た実例
ここからは実際に私が新苗を購入し、育てた薔薇の例を紹介します。
新苗で購入した状態から鉢増しまたは地植えを行ったことで、ベーサルシュートが元気よく発生した事例です。
これを見ると、新苗を購入された方は、直ぐにでも鉢増ししたくなるはず!?
また、以下では2つの薔薇の例のみを紹介していますが、今までに私が購入した新苗は、鉢増しまたは地植えにすることで、全ての新苗が植替え直後にベーサルシュートを発生させてくれています。
鉢増しした「シェエラザート」の事例
一つ目の例は上でも写真を紹介した「シェエラザート」です。
このシェエラザートは近くのホームセンターで販売されていたものを購入しましたが、購入した当日に下の写真の様に7号鉢に鉢増しを実施しました。
この鉢増しを行った日から、特に特別な栽培方法は導入していないのですが、約一か月後に次の写真の様にサイドシュートとベーサルシュートの両方が発生してきました。
これは、シェエラザートの新苗が、鉢の中に根をしっかり張ることが出来た証拠だと思います。
同時に2つの新梢が出てきているということは、それだけ株が充実し、新梢を2つ成長させることが出来ると判断した証拠と言えるかと。
地植えにした「シャリマー」の事例
もう一つの事例は同じくロサ オリエンティスの「シャリマー」です。
こちらのシャリマーは、5月初旬にお迎えした新苗になります。
上で紹介したシェエラザートとは異なり、花壇へ地植えすることとしました。次の写真が地植えをした直後の写真になります。
クリスマスローズや他の薔薇にも囲まれている狭い環境ではありますが、この場所に30cm四方の穴を掘って薔薇用の培養土を導入しました。
本来は50cm四方の穴を掘りたいところですが、周りの植物に影響するので30cm四方の穴としました。
しかし、この地植えがシャリマーの成長にスイッチを入れてくたようで、次の写真の通り、植え付けから約10日後にはなんと3本のベーサルシュートが顔を出し始めました。上で紹介したシェエラザートよりも、さらに1本多いベーサルシュートを同時発生させています。
地植えにしてから約10日ということで、まだ根はしっかりと張れてはいないと思うのですが、窮屈だった販売用のポットから解放された瞬間に成長のスイッチが入った事例となります。
このように、2つの実例を見ても、新苗の鉢増しや植え付けの重要性が分かるかと思います。
薔薇の新苗を購入後、1カ月以上放置している方は、直ぐにでも鉢増しまたは地植えを行っていきましょう!
その瞬間から薔薇の新苗の育成に明確な違いが出るかと思います。
この実例の様にベーサルシュートを発生してくれると、本当に嬉しいものです。
この記事の終わりに
この記事では、薔薇の新苗の栽培方法として、鉢増しや地植えの重要性を実例を交えながら紹介をさせていただきました。
薔薇の新苗はとても繊細そうに見えるのですが、実は最も薔薇の成長が観察できる時期でもあります。
そのため、その成長を助けるためには、苗の状態に適合した鉢 (栽培環境) を準備してあげる必要があります。
ベーサルシュートを発生させるためには、鉢の大きさをサイズアップしたり、地植えにして根が自由に成長できるような環境を与えてあげなければなりません。これは確かな事実です。
「そんなの当たり前の事でしょ!?」と思われるかもしれませんが、新苗の植えを変えずにそのままの鉢サイズで育て続ける方もいらっしゃるので、この記事で鉢増しや地植えの重要性を紹介させていただきました。
薔薇の新苗を自宅にお迎えしたら、一日でも早く鉢増しの作業を行っていきましょう!
鉢増しが1カ月遅れると、ベーサルシュートの本数を損することになるかもしれませんよ!?