「薔薇の栽培」と聞くと、皆様はどのようなイメージがあるでしょうか?
園芸を趣味にされている方であっても、「大変」「難しそう」「手が掛かる」というイメージをお持ちなのが大半なのかと思います。
薔薇の栽培に慣れている方からすると、そのようなイメージは全く無いものだと思います。しかし、初心者の方や薔薇を育てた経験が無い方にとって、薔薇の栽培に対するイメージは上記の通りでは無いかと思います。
ただ、実際に薔薇の栽培を経験してきた自分からすると、そのイメージは全くその通りだと思います。
マーガレットやコスモスなどを育てるのに比べると、確実にお世話の量が違いますし、美しく咲かせるためには一段も二段も上の園芸スキルが必要になってきます。
しかし、そのイメージをポジティブに考えると「薔薇を育てられれば様々な園芸品種の植物を育てられる」ということでは無いかと思います。
今回は、薔薇の栽培経験は園芸のスキルを大幅に向上してくれるという内容を紹介していきたいと思います。
最後までお付き合いいただければ幸いです。
薔薇はお世話が必須の植物であることは間違いない
園芸店で苗を購入してきて、家にあるプランターや花壇に植えこんで、定期的に水やりと肥料を与える…これが園芸で草花を育てる基本的な作業となります。
冒頭でも述べたマーガレットやコスモスなどであれば、この単純な作業で綺麗な可愛い花を咲かせてくれます。多分、誰が育てても、水やりと施肥をすれば概ね同じくらいの花を咲かせてくれます。
マーガレットやコスモスが多くの方に受け入れられており、ご家庭の園芸で人気人種である理由は、まさにそこに尽きるのだと思います。
それに対して、薔薇はどうでしょうか?
上で記載した基本的な作業をやってあげるだけで花は咲くのでしょうか?
冬に大苗を購入して鉢植えや花壇に植えこめば、花は咲くのでしょうか?
答えは「Yes」です。花は咲きます!
「花が咲くか否か?」という1点だけを考えれば、薔薇も一般的な草花と同じように花は咲くはずです。
しかしながら、大きく異なるのは花が咲いた後の作業です。
マーガレットは花後にハサミで花柄摘みをしてあげれば次の季節にも花をたくさん咲かせてくれます。
しかし、薔薇は花柄摘みをするだけでは無く、剪定の作業が必ず必要になります。花首のところで花柄摘みをしておけば良いというわけではありません。
「薔薇は剪定をして咲かせる花木である」と言われますが、全くその通りで、花が終わったら適切に剪定することが必要です。剪定をしなくても育ちますが、美しい樹形を保つことができませんし、剪定しないと花の数や花の大きさも確実に悪くなります。
また、薔薇は虫にも狙われやすい植物になるので、葉や蕾が被害を受ける前に殺虫剤による保護が必要になります。殺虫剤を散布するなんて、一般の園芸ではなかなか無い作業ですからね…。
さらに、葉や株元に病気が頻発することも多々あるので、殺虫剤だけでは無く、病気に対する農薬の使用も必要になってきます。
さらにさらに、肥料の与え方も病気の発生や育成に大きく関わる要素になります。
ですので、見出しのタイトルの通り、薔薇はお世話が必須の植物であることは間違いないのです。
近年は病害虫に強い薔薇の品種が作出されています。確かに病気が出にくい品種が出てきていることは間違いありません。しかし、虫に狙われてしまうことは避けては通れません。そのため、令和の時代になっても、薔薇はお世話が必要な植物になります。
薔薇のお世話をするとあらゆる知識が身に付く
お世話が必要ということと、そのお世話が結構大変だということを記載してしまうと、薔薇の栽培という趣味に高い壁 (敷居) を作ってしまう事になりますね…。
しかし、ポジティブに考えると、薔薇のお世話は園芸のスキルを上達させてくれる良い経験になると言えます。
薔薇のお世話は敷居が高い作業ではあるのかもしれません。しかし、自分の園芸スキルを上げるためには、一つ高い壁を越えないといけないんですよね。
いつまでも同じ仕事をしていては仕事のスキルが身に付かないのと同じで、いつまでも簡単な草花を育てていたら、結局それ以上の園芸スキルは身に付きません…。
以下では、薔薇の栽培で勉強できる園芸の知識について、簡単ですが紹介させていただきます。
土作りの基本が身に付く
簡単な草花を育てるだけであれば、ホームセンターに販売されている園芸用の培養土を用いれば何の問題もありません。多くの草花たちは、安価な園芸用の培養土でも十分育ちます。
薔薇は…というと、もちろん安価な培養土でも育たないことはありません。
しかし、薔薇に適した土は、ホームセンターで販売されている培養土 (保湿性が比較的良いもの) では無く、基本的に乾湿のメリハリを付けやすい土になります。
土の種類に依って根の張りに差が出てくるので、植え付け後の成長や花の数に差が生まれてくる可能性が高いです。
実際に私も土の種類・状態によって薔薇の育成に大きな変化が出たことがあります。薔薇栽培の基礎の一つは、土作りから始まると言えます。
土には様々な種類の土がありますが、「赤玉土」「鹿沼土」「ピートモス」等の土を御存じでしょうか?
それぞれに土の特徴があり、育てる植物の種類に依って、配合比を変化・最適化させていく必要があります。
薔薇を育てる時には、薔薇専用の培養土が販売されていますが、折角なので自分で土の配合を楽しむこともお勧めです。
その土の特徴を知ることができますし、自分で配合した土で咲かせた薔薇は、同じ薔薇でも綺麗に見えてしまうものです…。
私が行っている薔薇用の培養土作りは下の記事で紹介しています。
もちろん、薔薇専門店で薔薇専用の土を購入すれば、全く問題無く薔薇は育ちますので御安心を!
肥料の量やタイミングの基礎が身に付く
肥料を与えるタイミングって、どのように考えるべきか…人それぞれだと思います。
薔薇は一般的に言うと、寒肥・芽出し肥・お礼肥などがあり、それぞれ与える時期の目安は決まっています。
しかし、お住いの環境や日照条件等、その株ごとに適した施肥のタイミングには異なります。
寒肥については、基本的に1月中旬くらいに与える肥料ですが、これは日本全国どこでも概ねそのくらいの時期に行う作業だと言えます。
しかし、お礼肥や年間を通じて与える肥料は、薔薇の状態を見ながら与えていく必要があります。
例えば、お礼肥は薔薇の花が終わることに与える肥料の事ですが、薔薇の品種によっては開花時期にズレが生じます。そのため、全ての薔薇に対して同じタイミングでお礼肥を与えるのではなく、その薔薇の開花に合わせて与えることが必要です。
また、肥料の回数や量も薔薇の品種ごとに変えていく必要があります。
薔薇の品種によっては、肥料の量によって病気になりやすい品種などもあるので、肥料の調整は各薔薇で最適化していくことが必要かと思います。
実際に、私が栽培している薔薇も、肥料の量は各株ごとに変化を付けています。
例を挙げると、育成が旺盛な薔薇には相対的に肥料お量を多くして、成長が遅い薔薇には肥料の量を控えるなどの管理となります。また、うどんこ病が出やすい薔薇には肥料の量を少なくしておりますし、液肥はなるべく使わないように心掛けています。
薔薇の施肥は、園芸植物の中でも少し気を遣うところが多いので、施肥の方法を学ぶのに適した植物でもあると思います。
病気や害虫に対応する農薬の知識が身に付く
パンジーやマーガレットを育てる時には、農薬なんて使わないですよね!?
多少葉が黄色くなったり、元気が無くなっても基本的に放置してしまうことが大半かと思います。
しかし、薔薇の場合には、病気になると葉が完全に無くなってしまう事があり、育成に大きな影響がでてきます。また、虫に狙われることがとても多く、株全体が害虫の被害に合ってしまうことも多々あります。
薔薇の病気として有名なのが「黒星病」や「うどんこ病」となりますが、年間を通じて発生する病気になるので、その病気を防いだり治療するための農薬の知識が必要になります。
薔薇に付く害虫としては「ハダニ」「ハバチ」「ヨトウムシ」「アブラムシ」等が有名ですが、これらの害虫が付くと葉が無くなったり茎に割れ目が出てしまったりします。
基本的に病気や害虫が、薔薇の葉を無くしてしまう主な原因です。(私は夏に水切れを起こさせて葉を無くしたことがありますが…)
葉が無くなれば光合成が出来なくなりますので、株の成長と花の数に直接影響が出てしまう事になります。そうならないための予防策として、農薬の使用も考えていくことが必要になります。
ただし、農薬に頼らず、葉が無くなってしまう事を許容するという考え方もあります。
農薬の使用は皆さん一人一人の考え方だと思いますが、薔薇の栽培で農薬の知識が身に付くのは間違いはありません。
薔薇の栽培で植物の病気や害虫の事を学ぶと、多くの園芸品種の草花にも応用することができます。
剪定の方法や考え方を習得できる
「剪定」と言う言葉は、草花だけを育てられている皆さんにはなじみのない言葉だと思います。
剪定というと「職人さんが庭木を綺麗に切っていく作業」というイメージが強いのではないかと思います。
薔薇は「花木」に分類されますので、枝を切る作業は「剪定」という言葉が使われます。
花が咲いた後に花後の処理をするための剪定、夏の終わりに秋の開花に向けて行う夏剪定、冬の休眠期に行う冬剪定が主な剪定となります。
年間を通じて剪定の作業は頻繁に訪れますので、その剪定作業のスキルは身に付けておく必要があります。
「どの位置で剪定するべきなのか?」
「樹形を制御するためには、どのように剪定すべきなのか?」
これらの点を自分で決めて剪定していかねばなりません。
しかし、薔薇の剪定作業が分かると、他の有茎草の栽培にも応用することができます。
薔薇の剪定は少し大変な作業ではありますが、剪定の基礎を身に付けるのにもってこいの作業になります。
植物の育ち方の基礎知識も身に付く
これは、薔薇の栽培を通じて、私が最も勉強になったことです。
「植物はどのように成長していくのか?」
「新しい枝はどのように発生してくるのか?」
「根はどのようにして丈夫に育つのか?」
このような基本的な園芸の知識は、薔薇を1株育てると深く理解することができます。
初めて薔薇を育てるとき、我が子を育てるかの如く本当に大切に育てるので、成長の過程をじっくりと観察してしまう方が多いです。
そのため、植物の成長の過程を確実に勉強することができます。
私自身、植物の新芽がどこから出てくるのか?という基本的な知識も知りませんでしたが、薔薇の栽培でその答えを学ぶことができました。
また、薔薇を育てる時に、最初から大きな鉢を使うのではなく、適した鉢を使うことの意味を知ることもできました。当初は、鉢を変えるのが面倒だから大きな鉢に植えようと安易な考えを持っていましたが、根の成長の基礎を学んでからは、適した鉢サイズの使用を心掛けるようにしています。
薔薇の栽培から学んだ知識は、数えきれないくらいあります。そして、薔薇を栽培していると、それらの知識が知らぬ間に身に付いていきます。
さらに、薔薇のことで何か疑問があると、直ぐに調べて解決しようという習慣ができます。
その結果、いつの間にか薔薇だけでは無く、多くの植物の知識が頭の中に入っていきます。
趣味だった園芸が、いつの間にか学びの場に変わっているかもしれませんよ!?
薔薇が育てられれば他の植物は簡単に感じる
上記の様に、薔薇はお世話の内容が難しく、作業の量が多い植物であることは間違いありません。
御家庭で楽しむ園芸品種の花の中で、これ以上に手のかかる花は無いと思います。
薔薇を育てる前から「蘭 (ラン)」 の栽培をしていたのですが、蘭は栽培が難しいというイメージで、かなり身構えて挑戦していたことを覚えています。しかし、薔薇を育てた後になると、逆に蘭の栽培はとても簡単に思えるようになりました。
また、ハオルチアなどの多肉植物の栽培についても同様です。薔薇栽培で土作りの基本が学べていますし、水やりの基本も習得できているので、初挑戦する時に全く敷居を感じることなく始めることができました。
マーガレットやパンジー・ビオラなどの季節の花については言うまでもありません。
薔薇を育てる前は季節の草花を管理の問題で枯らせてしまったりすることもありました。しかし、薔薇を育て始めてからは、草花を枯らせてしまう事がほとんど無くなりました。
薔薇は花の女王だと言われますが、その女王を栽培することができれば、他の草花の栽培は簡単に感じます。
薔薇の栽培は敷居は高いですが、それを乗り越えた時は、園芸に関する基礎知識を習得した時だと言っても過言ではないと思います。
「薔薇の殿堂入り」の品種や最新の品種が挑戦しやすい
薔薇栽培の大変な所は、上述の通り、病害虫との戦いです。
その中でも「黒星病」が特に大敵となりますが、黒星病が出ないだけで薔薇の管理はとても楽になります。
近年は病気に強い薔薇が続々と誕生してきていますが、初心者の方は「薔薇の殿堂」に選出された品種から薔薇栽培を始めてみると良いと思います。
薔薇の殿堂に選ばれた品種は、薔薇が育成可能な環境下であれば、誰が育てても花を咲かせてくれる品種になります。病気にも強く、病気になっても回復する力が強いと感じます。また、樹勢も強く、花の数も多いので、初めて薔薇を栽培するのに最適です。
そして、近年作出されている薔薇達には「病気に強い」という特徴があります。病気に弱い薔薇は、たとえ美しくても新品種として発表されないようになりました。
言い換えれば「病気に強い事」が販売される第一条件になっています。
これは、新たに薔薇を始める方にとっての敷居を大幅に下げてくれるので、薔薇業界や育種家の皆様にとっても目標としなければならないところなのだと思います。
「薔薇は病気に弱い」と考える時代は終わりを告げようとしています。
この記事の終わりに
この記事では、薔薇の栽培を経験すると、園芸に必要な多くの知識を身に付けられるということを紹介させていただきました。
薔薇はお世話が大変な植物だと言われますが、確かにその通りだと思います。
施肥の方法、病害虫との戦い、剪定の必要性…
一般的な草花には無い作業が多く求められます。
しかし、それはポジティブに考えると、園芸に必要な様々な知識を勉強させてくれる植物だと言い換えることができます。
薔薇を1株育てると、園芸に必要なスキルの多くの知識を身に付けることができます。これは、間違いないです。
薔薇は敷居の高い植物だと思われがちですが、是非1株手に取って育ててみて欲しいと思います。
きっと、薔薇栽培は園芸という趣味の幅を広げてくれますよ!